
「私の楽器はオーケストラだ」とデューク・エリントン本人が言うほど、エリントンと言えばビッグバンド・サウンドが有名である。作曲家としも「In a Sentimental Mood」「Take the A-Train」「Satin Doll」などジャズ史に残る名曲の数々を残している。その名曲は今もなお多くのミュージシャン達によって演奏され続けている。この『Money Jungle』はデューク・エリントン名義のアルバムであるが、サイドを固めるチャールズ・ミンガスとマックス・ローチの強靭なリズムセクションなくして、この名盤は生まれなかっただろう。
怒れるベーシスト、チャールズ・ミンガスは、実は熱心な「エリントン・マニア」
チャールズ・ミンガスは「怒れる闘士」として数々の逸話が存在するベーシストである。
こと人種問題になると、よりエキセントリックな一面が顔を覗かせ、社会的行動にまで発展することも度々あった。ミンガスがベーシストとして、そしてバンドリーダーとして生み出すサウンド同様、そこには強烈な「個性」を発揮している。その個性は時には「野蛮さ」ともとれる行動に結びつき、結果、多くの逸話を残している。
・バンドのメンバーのサウンドが気に入らず前歯をへし折った
・ジャズ・クラブのオーナーと口論になり怒りに任せてドアを引きちぎって投げ捨てた
・演奏を聴いていない観客に腹を立てバンド演奏を止めてまで説教をした
など枚挙に暇が無い。
また、バンドリーダーとしてもメンバーへの「個性」に対する要求もかなり厳しいものがあったようだ。ある時、アルトサックス奏者のジャッキー・マクリーンがチャーリー・パーカー風のフレーズをうっかり吹いてしまった時(当時、マクリーンはチャーリー・パーカーの影響を色濃く受けていた)には、ミンガスはバンドの演奏を止めてマクリーンに「俺はチャーリー・パーカーが聴きたいんじゃない!ジャッキー・マクリーンを聴かせろ!!」と激怒したという。
そんなミンガスであるが、当の本人はデューク・エリントンを尊敬し、その音楽には多大な影響を受けており、それはもう「マニア」と呼ぶに相応しいほどだった、というのが面白い。
特に「エリントン・マニア」であるミンガスがウィットを交えてエリントン音楽を料理した異色作『Pre-Bird』などは興味深い。このアルバムでミンガスは、エリントンの名曲「Take the A Trane」を他のスタンダードナンバー「Exactly Like You」と掛け合わせて演奏する遊び心を見せている。(ちなみに『Pre-Bird』というタイトルは、「Pre(以前)-Bird(チャーリー・パーカー)」、すなわち、ミンガスがチャーリー・パーカー以前に影響受けた「デューク・エリントン」のことを指している。)
ジャズドラムの革命児、マックス・ローチ忘れてはならないのが、2人の対決にドラムで華を添えるマックス・ローチである。
マックス・ローチはケニー・クラークとともに、1940年代当時は単なるリズムパートと考えられていたドラムを、他の楽器同様にソロを展開するパートとして地位を確立させたミュージシャンでもある。また『We Insist!』(1960年)など人種問題への明確な意思を表現したことも有名である。そのドラミングのスタイルは、彼の人生と同様に常に挑戦的なものであった。
さて、そんな個性の強いチャールズ・ミンガスとマックス・ローチが、大御所デューク・エリントンを相手にどのような演奏を繰り広げたのかが、この『Money Jungle』の面白さでもある。
冒頭の1曲目の「Money Jungle」から一気に3人の凄まじい熱気に引き込まれる。エリントンの年齢を忘れさせる力強いピアノのタッチに、ミンガスの弦のストロークを最大に活かせたアーシーで野蛮なプレイ。乾いたドラミングで存在感を示すローチ。ビッグバンドではなかなか楽しむことができないエリントンの個性に溢れたピアノサウンドが楽しめる。ミンガスも敬愛するエリントンに対して全く臆することなく真っ向から挑んでいく。
ジャズの熱いエキスが見事に凝縮されたアルバムである。